結婚から15年目を迎えた今も、夫とはとても仲が良い。
夫婦円満の秘訣は、2人のルールを持つこと。
ルールといっても、何も大げさなことじゃない。
1杯のコーヒーとともに、同じ時間を分かちあう。たったそれだけだ。
結婚してしばらく経ち、生活に慣れた頃だっただろうか。過去最大級のけんかをした。家事分担をめぐるすれ違いだったか、靴下が裏返しのままだったか、原因ははっきり憶えていない。その程度のささいなことだったと思う。
いつもはすぐに丸く収まるのに、その時はなぜか、お互いに折れるタイミングを見失った。口論から一転、部屋の中に立ち込める気まずい沈黙。壁掛け時計の「チッ、チッ」という音だけが耳につく。
永遠に続くかに思えた重い空気を破ったのは夫だった。
「……コーヒー淹れようか」
無言で冷凍食品のみの夕食を済ませたあと、夫はそうつぶやいて腰を上げた。そして、ゆっくり丁寧な手つきでコーヒーをドリップしはじめた。
お湯を注いだ瞬間に広がる芳ばしい香り。部屋の中の空気がふんわりと色を帯びるように緩んでいく。
やたら大きく響いていた時計の音が消え、2人の間のわだかまりも溶けて滲んで流れていった。気が付けば、自然と会話が生まれていた。
そんなことがあってから、夕食後に夫婦でコーヒーを飲むのが日課となった。淹れるのは、もちろん夫。
「あなたが淹れると味が違うのよねぇ。よっ、コーヒー名人!」
つい冗談めかしてしまうけれど、私の心からの本音。夫が淹れてくれたコーヒーは、不思議なくらいおいしいのだ。香りも味わいも、自分で淹れるのとはまるで違う。
きっと、目には見えない隠し味…そう、“思いやる気持ち”が入っているからなのだろう。
1杯のコーヒーを飲む、わずかな時間。私たちはテーブルを挟んで向かい合い、マグカップ片手に、その日にあった出来事をとりとめなく話す。
仕事でうまくいったこと、近所に新しいお店がオープンしたこと、今日読んだ本が面白かったこと…。
どんなに忙しくても、この習慣は欠かさないようにしている。
何十年という長い道のりを一緒に歩む夫婦にとっては、特別な記念日よりも、“なんでもない日常”が大切。だって、日常生活の連続が人生だもの。
こうしたささやかな時間の積み重ねが、信頼感や絆を育んでいくのだと思う。
当たり前の日々とお互いへの感謝を持ちながら、2人のルールを愛おしんでいきたい。
これから先もずっと、よろしくね。
本エピソードは、AGF®パートナー しわん さんの体験を基に執筆しました。
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