忘れられないコーヒーの記憶。それは、1976年までさかのぼる。
当時は、フォークソング・ブームの真っ只中。まだ学生だった私は、その洗礼をたっぷり浴びた。髪を肩まで伸ばし、ベルボトムのブルージーンズをまとい、どこへ行くにもギターが相棒だった。
そんな多感な青春時代、旅先の喫茶店でブルーマウンテンに出会った。
学生最後の春休み、バンド仲間とドライブ旅行に出掛けた。行先は、岡山県の倉敷。行き当たりばったりの気ままな旅だ。
定番のスポットを一通り巡った私たちは、街角のベンチで休憩がてら、ギターをつまびく。流行のフォークソングを演奏すると、同世代の観光客が集まってきて、たちまち小さな輪ができた。
自然と手拍子が起こり、合唱が始まる。路上が熱を帯びたライブハウスに早変わりし、そこには同じ時代を生きる連帯感が生まれていた。
「大声出したから、喉渇いたね」
先ほどの余韻に浸りながら、私たちは近くの喫茶店に立ち寄り、髭面のマスターに勧められるまま、ブルーマウンテンを注文した。800円と高めだったが、高揚して気が大きくなっていたのだ。
「…うまい!こんなに違うものなのか」
初めて飲んだそのコーヒーは、感動的な味だった。すっきりとした苦味の奥から湧き上がってくる、繊細な甘味。
――気持ちが高ぶっているせい?いやいや、それにしても…。
あまりの美味しさに、心の中で自問自答してみる。今まで何気なく飲んでいたコーヒーとはまるで別物に感じられた。
向かいに座っているバンド仲間も、満足そうにニンマリ笑う。私たちはお互いに顔を見合わせ、一緒に「ふぅ」と深く息をついた。
ほどなく学生生活は終わりを告げ、肩まで伸びた髪も切った。
もう路上でギターを弾くことはないが、今でもブルーマウンテンを飲むと、エネルギーに満ちた青春時代の空気がよみがえってくる。
あの喫茶店はまだあるだろうか。今度、懐かしい仲間を誘って訪れてみようか。そんなことを思い描いている。
本エピソードは、AGF®パートナー 四郎次郎 さんの体験を基に執筆しました。
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