自分にとって思い出のコーヒーって何だろう?と考えた時、真っ先に浮かぶのは、ベトナムのビーチで出会った甘くて冷たい1杯だ。
エメラルドグリーンの海を眺めながら、はじめて飲んだベトナム式のアイスコーヒー。その光景、その味わいは、今も鮮明に記憶に残っている。
10年ほど前、ようやく連休のとれた社会人の娘と一緒にベトナムのツアーに参加した。飛行機を降りて空港から一歩出た瞬間に肌を包む、経験したことのない熱気。「あぁ、南国にやってきたんだな」という開放感が体中に巡っていくのを感じた。
市街地でショッピングや観光を楽しんだあと、地元民にも人気だというロングビーチへ。どこまでも続く海岸線とパウダーのようにきめ細やかな砂浜。街中の喧噪とはうって変わった別世界が広がり、自然と頬がゆるんでしまう。
2人で並んで、ヤシの葉葺きのパラソルがつくる陰でくつろいでいると、カチャカチャと賑やかな音を立ててトレーが運ばれてきた。
あらかじめ練乳の入ったグラスの上に、まるでレトロ雑貨みたいなアルミ製のフィルターがちょこんと乗っている。
給仕係がお湯をゆっくり注ぐと、海風の合間をぬって芳ばしい香りが鼻先まで届く。グラスの中には、真っ白な練乳と濃褐色のコーヒーの見事なツートーンカラーが出現した。
「わっ、綺麗。こんな風に二層になるんだ」
そして、最後の仕上げにたっぷりの氷。グラスの表面がたちまち汗をかき、しずくとなって伝い落ちた。
ストローを挿して、そっとひと口。はじめて飲むのに、どこか懐かしい風味がふんわりと膨らむ。
「おいしいね。この甘さ、何だかほっとする」
隣にいる娘も、満足そうにゴクリと喉を鳴らした。
氷の溶ける速度にあわせて、白と濃褐色の2色が美しいマーブル模様を描き、波の音とハーモニーを奏でる。
「…ふぅ、天国にいるみたい」
月並みな言い方になるけれど、まさに至福のひと時だった。
あれ以来、娘とコーヒーを飲むと決まってベトナム旅行の話題が出る。
「またいつか、行きたいね」「うん、きっと行こう」
合言葉のように交わし、マグカップ片手に思い出話に花が咲くのだ。
本エピソードは、AGF®パートナー 梅干ばば さんの体験を基に執筆しました。
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