結婚を機に実家から遠く離れた土地で暮らす私にとって、第二の自宅のようにくつろげる場所、それは近所の喫茶店です。
商店街の一角に佇む、笑顔がチャーミングなママさんが切り盛りする小さなお店。買い物帰りに立ち寄っては、ブレンドコーヒー片手にひと息つくのが日課でした。
そんなある日、はじめての妊娠が判明しました。喫茶店通いを続けたい私は、大好きなブレンドコーヒーを我慢して、カフェインレスコーヒーをオーダーすることに。注文から出来上がるまでに多少時間はかかるけれど、それでもやっぱりコーヒーの風味を味わいたかったのです。
1週間が経ったころでしょうか。いつものように喫茶店のドアを開けると、ママさんは「いらっしゃいませ」と言うが早いか、カフェインレスコーヒーの抽出を始めました。
「予定日はいつですか?」と微笑むママさん。そう、妊婦の私を待たせないための心遣いだったのです。なんとその1週間後には、私の来店のタイミングを見越して、カフェインレスコーヒーが準備されているようになりました。
それから臨月を迎えるまでの数か月。外の風が入りにくいソファー席を用意してくれたり、ブランケットをそっと差し出してくれたり、私が安心して過ごせるよう寄り添ってくれました。
そしてとりわけ嬉しかったのが、ママさんからかけられた言葉の数々です。
「つわり、辛いでしょう。私も10キロ落ちたんですよ。そういう時はね…」
「もうすぐ会えるね。おばちゃんも楽しみに待っているからね」
人生の先輩としてのアドバイスもあれば、時にはおなかの赤ちゃんにやさしく語りかけることも。
何気なく紡ぎ出されるその言葉は、近くに親しい人がいない土地で孤独を感じていた私の心を魔法のように溶かしていきました。
――周囲の人がおなかの子の存在を認識してくれている。愛情を注いでもらっている。
そう思うだけで救われた気がして、前向きに妊娠に向き合うことができました。
おかげで無事に出産し、今ははじめての育児に奮闘中です。
少し落ち着いたら、わが子と一緒にあの喫茶店を訪れたいと思っています。久しぶりのブレンドコーヒーとママさんの笑顔が待ち遠しい日々です。
本エピソードは、AGF®パートナー 柚はちみつ さんの体験を基に執筆しました。
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