コーヒーの思い出エピソード
2021/02/05

母から譲り受けたサイフォン

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ぱんだ先生 さん

私のもっとも古い記憶は、サイフォンでコーヒーを淹れる母の姿かもしれません。

幻想的に揺らめくアルコールランプの炎。フラスコのお湯がポコポコと音を立ててロートへ上がっていったと思ったら、今度はコーヒーとして落ちてくる―。
幼い私にとってその様子はとても不思議で、まるで理科の実験か、絵本で知った魔法薬の調合のように見えました。
母がコーヒーを淹れる素振りをするやいなや、タタタッとそばに駆け寄り、瞬きもせずに眺めたものです。

「ねぇ、どうしてお湯が行ったり来たりするの?」
「それはね、おいしくなる魔法をかけているからよ」
私の素朴な質問に、そう茶目っ気たっぷりに笑う母が大好きでした。

そんな楽しい時間も、日々の忙しさの中で次第に少なくなり、いつしかサイフォンは棚で眠ったままに…。

時が過ぎ、あの頃の母と同じ年齢になった私は、ふと母に尋ねてみたのです。
「あのサイフォンって、まだある?」
「もちろんあるわよ。ちょっと待ってね」
母は弾んだ声で即答し、手をぐーんとのばして棚の奥から四角い箱を取り出しました。

ひとつひとつ柔らかい紙に包まれ、長方形のスペースにぴっちり几帳面に収まったパーツたち。包みをほどくと、フラスコもロートもアルコールランプも、昔と変わらぬ輝きを放ち、母がどれだけ大切に保管していたかを物語っていました。

「いつかまた使う日がくると思って大事にしまっていたのよ。よかったらもらってくれる?」
うれしそうに目を細め、思い出が詰まった懐かしいサイフォンを私に譲ってくれました。

今の私の一番の楽しみは、週末にこのサイフォンでコーヒータイムを過ごすこと。
手軽さでいえばペーパードリップやインスタントに軍配が上がるけれど、私にとって何にも代えがたいひと時です。

ポコポコと上下するお湯を見ていると、子ども時代のワクワクした気持ちがよみがえってきます。それと同時に、あの頃は知る由もなかった母の想いまで伝わってくるような気がします。

ゆっくり、焦らずに。疲れたら、ひと休み。
母から譲り受けたサイフォンとともに、これから新しい時間を紡いでいきたいと思っています。

本エピソードは、AGF®パートナー ぱんだ先生 さんの体験を基に執筆しました。

 

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