いわゆる“海なし県”で生まれ育った私の海水浴デビューは、小学2年生の時。両親に連れられて行った初めての海は、驚きの連続でした。
サンダルを履かないと熱くて歩けない砂浜、まるで生きているかのように押し寄せる波。海という存在が縁遠かった私にとって、とにかく見るもの・触れるものすべてが新鮮でした。
波の動きに最初はおっかなびっくりだったけれど、慣れてくると、大の字に浮かんで青空を見上げる余裕も。「ちょっとひと休みしようよ」と母にあきれ顔をされるまで、時間も忘れて夢中で海と戯れました。
生まれて初めて海に触れたこの日、もうひとつの“初めて”を体験しました。それは、コーヒーの味を知ったこと。
海から上がった私と両親は、冷たいものを求めて、赤い“氷”の文字が軒先にはためく海の家へ。いちご、レモン、ブルーハワイといったお馴染みのメニューが並ぶ中、見たことのない『コーヒーかき氷』を発見!
「珍しいからこれにする!飲むわけじゃないからいいでしょ?」
コーヒーは大人の飲み物だからと飲むことを許してもらえなかった当時の私。チャンスとばかりにおねだりしてみると、母は笑って「今日は特別ね」と言ってくれました。
出てきたのは、こんもり盛られた氷の上に、濃褐色のコーヒーのシロップがたっぷりかかったかき氷。“飲む”コーヒーではないけれど、何だか大人になった気分がして胸が高鳴りました。
シャクシャク、パクッ。
スプーンですくって口に運んだ瞬間、ヒヤッとした感覚とともに、ほろ苦くて香ばしい味わいが広がりました。
「コーヒーってこんなにおいしかったんだ…!」
苦みをおいしいと感じたのは、この時が初めてです。自分の新しい扉が開けたような、そんな不思議な気持ち。
私は、最後に器に残ったコーヒー味の溶けた氷をゴクゴクと飲み干してから、少し大人ぶって「プハーッ」と息をつきました。
海とコーヒー、2つの“初めて”に出会った夏の一日。
さすがにはしゃぎ疲れて、帰りの車では、後部座席にもたれてウトウト。まどろみの中で、カーラジオの音と両親の声がぼんやりと聞こえてきました。それが何とも言えず心地よかったことを憶えています。
この日の楽しさが忘れられず、大人になってからは毎年必ず海水浴へ出かけるようになりました。そして海の家に立ち寄る度に、メニューの中に『コーヒーかき氷』をつい探してしまいます。
本エピソードは、AGF®パートナー トミー さんの体験を基に執筆しました。
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