数年前の冬、私は韓国へ行った。
その日は、人生で経験したことのない寒さ。最低気温は「マイナス15℃」を指し、韓国の友だちから「今日は今年1番の寒さだよ、運が悪かったねぇ」と同情されたほど。
ジャケットの上からさらに厚手のコートを羽織り、大判のマフラーをぐるぐる巻きにして、深く顔をうずめる。めいっぱい着込んだ私は、まるで雪だるまのように見えたかもしれない。
夜のイベントが終わって外に出ると、昼間よりも寒さが増していた。
手袋をしていても指先が震え、携帯電話に文字を打つことさえできない。まるで冷凍庫の中にいるみたいで、このままだと本当に凍ってしまいそうだった。
とにかく温かいものが飲みたいと思った。
「カフェ…カフェ…」 心の中でつぶやきながら、夜の街を歩く。オレンジ色の穏やかな明かりを灯すカフェを見つけ、迷うことなく駆け込んだ。店内はとてもあたたかく、それだけで幸せを感じた。
「カペラテハナジュセヨ(カフェラテひとつください)」
凍えた声でオーダーすると、店員のお姉さんは少し申し訳なさそうに「もうすぐ閉店だけどいいかな?」と言った。
「大丈夫です!」
そう告げて、カフェラテができあがるのを待った。
「ゆっくり飲んでいってね」
ブザーが鳴ってカウンターまで受け取りに行った私に、お姉さんはニッコリと微笑んでくれた。やさしい気遣いが心に染みた。
さっそく熱々のカフェラテをひと口。甘くてほろ苦い味わいが広がり、かじかんだ手足がじんわり溶けていく。こんなにおいしいカフェラテは生まれて初めてだった。飲み終わる頃には、心も体もぽかぽかになっていた。
日本から来た私を救ってくれた、1杯のカフェラテとお姉さんの笑顔。
感謝を込めて「カムサハムニダ(ありがとう)」と小さく会釈をして、カフェを後にした。
残念ながら、そのカフェは閉店してしまったけれど、私にとっては忘れられない大切な思い出。
今でも寒い日にカフェラテを飲むと、あの日の空気や香りはもちろん、あたたかな気持ちまでよみがえってくる。
そして、胸の中でそっと語りかける。
「…お姉さん、元気にしてる?あの時はありがとう」
本エピソードは、AGF®パートナー ぽんちゃん さんの体験を基に執筆しました。
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