コーヒーの思い出エピソード
2020/10/16

理科準備室で過ごした特別な時間

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ゆき さん

秘密基地のような理科準備室。
ぶっきらぼうだけど、やさしい先生。
アルコールランプとビーカーでつくるコーヒー。

中学生時代の学校生活で真っ先に思い出すのは、そんなちょっと風変わりな日常の風景。
修学旅行とか文化祭とか、大きな行事がたくさんあったはずなのに、不思議なものですよね。

ちょうど進路を意識し始めた頃。私は、ふとしたきっかけで理科を担当している先生と仲良くなりました。
その先生は、いい意味で“先生っぽくない先生”で、生徒の間で隠れた人気。機会をみつけては、友だちと理科準備室に遊びに行くのが、残り半分を切った中学校生活の楽しみのひとつでした。

「あっ、コーヒーの匂いがする。寄ってこ、寄ってこ」
理科準備室の前を通りかかると漂ってくる、いつもの香り。私たちは引き戸を小さく開けて、トーテムポールのように顔をぴょこんと縦に並べました。
「お前ら、また来たのかぁ」
素っ気ない言葉とは裏腹に、先生は満面の笑みで迎えてくれました。

さまざまな実験器具や模型がひしめき合う空間は、学校という世界からはどこか離れた、秘密基地のような雰囲気。
「とりあえず座れや。お前らも飲むよな?」
先生は少し背中を丸めてアルコールランプとビーカーを操り、2人分のコーヒーをつくってくれました。

「…ねぇ、まるで漫画のワンシーンみたいじゃない?」
科学実験さながらの先生の様子を眺めていた友だちが、ハッと思い出したように私に耳打ち。実はこのシチュエーション、当時流行っていた少女漫画の一場面とそっくりだったんです。
「ふふ、わかるわかる、なんか面白いね」
目の前にいる先生と少女漫画のギャップが妙におかしくて、自然と笑いが込み上げてきました。そんな私たちを気に留めるでもなく、「ほい」とコーヒーを差し出す先生がまたおかしくて。

「先生、砂糖とミルクはないのぉ?」
「んなもんあるか、そのまま飲め!」
お決まりの掛け合いをしながら、真っ黒なコーヒーを飲むこの時間は、ありふれたようで特別な時間でした。

とりたてて真剣な話をするわけでも、悩み事に直結する答えをくれるわけでもなかったけれど、この場所にくると素直に心の荷物をおろすことができたっけ。帰る時には、知らず知らず足どりも軽くなったりして。

そうだ。今度の休日は、久しぶりにコーヒーを淹れよう。
そして、昔夢中だった少女漫画を引っ張り出して、あの頃の自分や先生と一緒にコーヒータイムを楽しみたいな。

本エピソードは、AGF®パートナー ゆき さんの体験を基に執筆しました。

 

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