コポ、コポコポ…
朝起きたらまず、コーヒーを淹れるのが私の日課。
お湯を注いだ瞬間に湯気とともに立ち昇る香りを嗅ぐたび、ある懐かしい記憶がよみがえってきます。
それは、私が小学校低学年の夏休み。ひとりで祖父母の家にお泊りに行った時のことです。
「…ん?いい匂いがする」
鼻をくすぐる芳ばしい香りで目が覚めた私。寝ぼけまなこで香りを辿っていくと、長年使い込まれた道具が並ぶ台所でコーヒーを淹れる祖母の姿がありました。
私に気付いた祖母は頬をゆるめて、
「おはよう、早起きだね。〇〇ちゃんも飲む?」
と朝の第一声。そして私の返事を待たずに冷蔵庫から牛乳を取り出し、手際よく小鍋に移して温めはじめました。
ほどなくテーブルに置かれたのは、湯気の下にミルクとコーヒーがゆっくり渦を巻くホットオレ。ふぅっと息を吹きかけて口に含んでみると、これまで経験したことのないやさしい甘さが広がりました。
「あれっ、なんかほわっとする味!」
思いがけないおいしさに、私は椅子からぴょんと躍り上がりました。
たっぷりの牛乳とほんの少しのインスタントコーヒー、ひとさじのお砂糖。特別なものは何も入っていないのに、どうしてこんなに幸せの味がするんだろう。
…おばあちゃんって、もしかして魔法使い?
マグカップを持つ祖母のしわしわの手を見ながら、そんな想像を膨らませて愉快な気持ちになりました。
魔法のようなおいしさが忘れられず、自宅で母に「ホットオレ作って」とお願いしましたが、結局あの味を再現することはできずじまい。互いに顔を見合わせ、「不思議だねぇ」と首を傾げました。
大きくなってから、祖母に作り方を聞いたことがあります。
「フフフ、適当よ」
祖母はそう言って、いたずらっぽく笑ってみせました。
あの時あれほどおいしく感じたのは、祖母の素朴な愛情、年輪を刻んだ台所のぬくもり、そして夏休みのワクワクした空気がひとつになって、ホットオレに溶け込んでいたからなのかもしれません。
今では、大がつくほどコーヒーが好きになった私。
朝食時にはもちろん、午前中の家事が一段落したら一杯、午後はパソコン作業をしながら一杯。毎日の生活に欠かせないパートナーです。
そんな“コーヒー大好き”の原点は、子どもの頃に祖母が作ってくれた魔法のホットオレにあるような気がします。
本エピソードは、AGF®パートナー コーヒー大好き さんの体験を基に執筆しました。
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